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本殿

古来、伊予の高嶺と称えられる西日本最高峰・石鎚山〔いしづちさん〕(1,982m)を神体山とする石鎚神社〔いしづちじんじゃ〕は、神社本庁に所属すると同時に、石鎚本教〔いしづちほんきょう〕の総本宮として山岳信仰の特殊性を生かした教化活動を展開している。旧・県社(現・神社本庁別表神社)。

石鎚神社御朱印

山麓の愛媛県西条市西田に口の宮・本社、中腹に中宮・成就社、山頂に奥の宮・頂上社が鎮座し、昭和46年に創立された土小屋遙拝殿を併せて石鎚神社と総称する。

御祭神は石鎚毘古命〔いしづちひこのみこと〕で、石土毘古命〔いわつちひことのみこと〕、石鎚大神〔いしづちおおかみ〕とも称する。『古事記』において、伊邪那岐・伊邪那美の両神の国生みの際、大八洲に続いて生んだ神々の一柱である石土毘古神である。
『日本霊異記』には、「石鎚山の名は石槌の神が坐すによる」とあるが、「いしづち(いはつち)」とは「イハ-ツ-チ」すなわち「石の霊(チ)」の意味と考えられる。

神門(旧別当・前神寺の山門)

御祭神は一柱だが、その智仁勇の三つの神徳を表すために三体の御神像を祀るとする(これは、かつて三体の蔵王権現像を祀っていた名残であろう)。

日本七霊山にも数えられる石鎚山は、神変大菩薩・役小角によって開創したと伝えられる。『万葉集』では山部赤人が「極〔こご〕しき伊豫の高嶺」と詠い、『文徳実録』には灼然と弟子の上仙(寂仙とも)が精進練行したとある。上仙は天平宝字2年に遷化しており、山岳信仰の聖地のうちでも最古に属する。また、弘法大師が青年時代に修業したことも、大師直筆の『聾瞽指帰〔ろうこしいき〕』によって知られる。

因みに、『日本霊異記』によれば、弘法大師を庇護した嵯峨天皇は、石鎚山で修行した寂仙菩薩の生まれ変わりだとされる。

石鎚山
石 鎚 山

『梁塵秘抄』には、有名な聖の在所として、大峯・葛城・箕面・勝尾・書写山・熊野三山などともに名前が挙げられている。早くから神仏習合の修験の山となり、石鎚蔵王権現〔いしづちざおうごんげん〕と称して、前神寺〔まえがみじ〕(四国霊場64番)・横峰寺〔よこみねじ〕(四国霊場60番)が別当寺として栄えた。

禊場

桓武天皇をはじめとする歴代天皇や武将の崇敬も篤く、慶長15年には豊臣秀頼が福島正則を普請奉行として常住社〔じょうじゅうしゃ〕(現・成就社)を再建している。
江戸時代には西条藩主・松平氏、小松藩主・一柳氏も深く尊崇した。特に西条藩は紀州徳川家の分家であったことから、8代将軍・吉宗、9代・家重、10代・家治の祈祷も命ぜられた。

明治元年(1868)、神仏分離令が発せられると、別当・前神寺は石鎚蔵王権現の称号とともに廃されて石鎚神社となり、横峰寺も西遙拝所・横峰社とされた(後に前神寺は末寺・医王院の地に再興され、横峰社は横峰寺に戻されている)。

第二次大戦後は神社本庁に所属するとともに、石鎚神社傘下の包括宗教法人・石鎚本教を設立した。公称9万余の信徒・崇敬者を擁し、石鎚修験の伝統を継承した独自の教化活動を行っている。教線は西日本を中心として海外へも及び、ハワイや南米にも遙拝所が設立されている。

旧三の鎖が手すりとして懸けられている本殿前の石段。「安永八年奉懸・石鎚山三之鎖」の銘

石鎚山の修行の特色は鎖禅定〔くさりぜんじょう〕と称する3ヶ所の鎖の行場である。下から順に一の鎖(33メートル)、二の鎖(65メートル)、三の鎖(68メートル)と呼ばれ、三の鎖を登り切ったところに頂上社が鎮座する。平均斜度50度を超す急な岩場を、鎖を頼りに登っていくのである。
この鎖がいつ掛けられたかはわかっていないが、元禄年間のものと推定される古絵図には、すでに鎖が描かれている。また、安永8年(1779)には鎖の掛け替えが行われ、近年まで使用されていた。現在、この古い鎖は本社の厄除け階段などの手すりなどとして使われている。

参考:『石鎚神社』(石鎚神社・石鎚本教)
『神社辞典』(東京堂書店)

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石鎚神社の概要
◆鎮座地 (口の宮本社)愛媛県西条市西田甲797 (地図表示:マピオン)
(中宮成就社)愛媛県西条市小松町石鎚417成就(地図表示:マピオン)
(奥の宮頂上社)愛媛県西条市石鎚山頂(地図表示:マピオン)
(土小屋遙拝殿)愛媛県西条市西ノ川丙(地図表示:マピオン)
◆社格等 旧・県社(現・別表神社)
◆祭神 石鎚毘古命(石鎚大神)
◆旧称・別称 石鎚大権現
◆創祀 天武天皇13年(685年)
◆社紋 丸に石文字
◆例祭 4月5日
◆特殊神事等 7月1〜10日 お山開き

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2003.10.21
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